2024年11月8日、シンポジウム「地球の循環〜生きること、死ぬこと」を開催しました。
旭山動物園名誉園長・坂東元先生と、うんこの博士・井沢正名先生をお招きして
自然の中での命の循環についてお話を伺いました。

坂東 元(ばんどう・げん)

1961年北海道旭川市生まれ。旭山動物園統括園長・ボルネオ保全トラスト・ジャパン理事として精力的に活動。1986年から旭山動物園に勤務、こども牧場・ペンギン館・アザラシ館・レッサーパンダ舎・エゾシカの森などを手がける。著書に『ヒトと生き物 ひとつながりのいのち 旭山動物園からのメッセージ』(日本図書館協会選定図書)、『動物と向きあって生きる』(角川ソフィア文庫)、夢の動物園 旭山動物園の明日』(角川学芸出版)、『旭山動物園へようこそ!初公開!副園長の飼育手帳・写真』(二見書房)など。

坂東先生には、獣医や動物園園長としてのご経験から、生き物や環境についてお話ししていただきました。
例えば、野生のスズメはクモやハエなどの虫を雛に食べさせます。しかし、その雛は全部が大人になれるわけではありません。巣立ってもうまく飛べない雛を、ハヤブサなどの大きな鳥が捕まえて食べます。そのハヤブサも死ぬとウジに食べられ、そこからたくさんのハエが生まれます。
このように、自然界には無駄になる命はありません。命の完全なリサイクルです。そのサイクルの外に出てしまったのが人間です。便利な生活を否定するということではありませんが、そのことを知っているだけで自然の見方が変わります。
環境問題では、野生の哺乳類は家畜動物の10分の1しかいないというデータを見せていただきました。そしてヒトは、一種だけで野生の哺乳類の約6倍にもなります。さらに、ヒトが作り出した人工物の総量は、生き物全体の重量を超えました。
このような現実を踏まえた上で、自然を回復軌道に乗せていかなければなりません。

井沢 正名(いざわ・まさな)

1950年茨城県出身。独学で技術を学び、キノコなどの写真家として活躍。1974年に信念の野糞を開始。2006年から糞土師(ふんどし)として活動を始める。2021年には子どもたちの山遊びや自然教育などを行う森としてプープランドをオープン。今年(2024年)公開の映画『うんこと死体の復権』(関野吉晴監督)にも出演。著書に『くう・ねる・のぐそ』『葉っぱのぐそをはじめよう』(山と渓谷社)、『ウンコロジー入門』(偕成社)など。

糞土師として糞を土に帰す活動を続ける井沢さん。1974年に野糞を始めてから、トイレで用を足したことは17回しかありません(そのほとんどは、舌癌で入院したときです)。どうしてそこまで野糞にこだわるのでしょうか。
「食は権利、うんこは責任、野糞は命の返しかた」。みなさんは、トイレに流したウンコがどうなるかご存知ですか? 水分は消毒して海や川に流され、固形物は燃やされて灰になります。その灰は一部コンクリートに混ぜて再利用されますが、自然に帰ることはありません。食べるということは命を奪うということであり、野糞をすることでその命を返せるのだと言います。
野糞をすることは自然にいいことなのに、みんなそれを嫌がります。世の中に環境を悪くしようと思っている人間はいません。でも、社会を良くしようとすることが、実は環境破壊につながっています。そのことに気づいてしまったと井沢さんは話します。
「人が作り出す最も価値のあるものはウンコであり、野糞は人間にできる最も崇高な行為である」。糞土師としての信念を、ユーモアを交えて語ってくださいました。

後半は対談形式で、会場からもご質問をいただきながら、お二人に語り合っていただきました。

坂東 パイロットなんかは便意をコントロールできないとなれないと聞きますが、そこら辺はどうなんですか?
井沢 どうしてもできない場所ってありますから、排便コントロールはやりました。我慢するのではなくて、ここでしたいと思ったら、便意がなくてもできるようにする。できないだろうっておっしゃいますけど、みなさん方も夜寝る前にトイレに行きますよね。だから訓練したらできるようになりました。

会場 便を土に帰すということであれば、必ずしもそこに野糞をしなくてもいいのではないですか?
井沢 携帯トイレというのはありますが、あれは結局燃やすゴミです。私が使っているのは牛乳の空きパックです。ガムテープで封をすれば、匂いも気になりません。トイレに入っても便座には座らずに、牛乳パックにするんです。

会場 昔は汲み取り式のトイレでしたが、それを復活させるのはどうですか?
井沢 いやいや、大賛成です。
コーディネーター 動物園では排泄物はどう処理されているんですか?
坂東 難しいです。一部、おがくずを混ぜて堆肥に戻そうとしているところもありますが、とても予算がかかります。昔はうちも園内で全て処理していたのですが、今は法的にできなくなっています。人の衛生に特化したことによって、そういうことがやりにくくなっています。
井沢 健康のために菌を遠ざけていますが、それによってどんどん抵抗力が落ちて弱くなります。
坂東 ウイルスや細菌の方が人類の総重量よりも多いわけです。自然を守るということは、細菌・寄生虫・ウイルスも一緒に共存するということです。ウイルスがいなければ、生態系は一日で崩壊すると言われています。日常にあるものとちゃんと共存できることが大事です。

会場からは笑いとともに、ときおり頷く声も聞かれました。
短いお時間の中でしたが、興味の尽きないお話でした。

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お二人の先生、そしてご参加くださった皆様ありがとうございました!