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2021年8月21日、第1回「養老先生と読書会」を開催しました。
年齢別に3冊の課題図書を選び、zoomでそれぞれ1時間の読書会を開きました。
当日は、昆虫写真家の海野和男先生も飛び入りで参加してくださいました。
各年齢の課題図書は次の通りです。
■低学年向け
『虫っておもしろい! どこにいるかな? 虫のかくれんぼ』
養老孟司=文/海野和男=写真
新日本出版社
ISBN: 978-4-406-06013-4
■高学年向け
『ファーブル昆虫記Ⅰ ふしぎなスカラベ』
奥本大三郎=訳/解説
集英社
ISBN: 978-4-08-231001-0
■大人向け
『蝶はなぜ飛ぶか』
日高敏隆=著
岩波少年文庫
ISBN: 978-4-00-114251-8
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低学年の部
最初に参加者から感想を聞くと、「カマキリが大好き!」というお子さんがいました。
それに対して養老先生は、カマキリがミツバチを捕まえるときに、噛まれたり刺されたりしないように、うまく頭とお尻をよけて捕まえる様子にとてもびっくりしたと、ご自身の体験を語ってくださいました。
海野先生によれば、カマキリが鎌を出してから捕まえるまで、1/20秒しかかからないそうです。
ハチを観察するのが好きというお子さんもいました。お母さんは危ないと心配しています。
養老先生によると、ハチはみんな刺すと思われているけれど、刺さないハチもいるといいます。
そして、刺すのはみんなメスで、オスは刺さないそうです。なぜでしょうか?
ハチの針はもともとは産卵管で、オスは針を持たないのだと、養老先生が教えてくれました。
(卵を産めるのは女王バチだけですが、卵を産む代わりに針にして巣を守っているのが働きバチです。)
ミツバチやスズメバチが危ないと言われているのは、集団で生活していて、メスがたくさんいるからだと海野先生が説明してくれました。
昆虫にも感情はありますか? それは昆虫の脳を調べたらわかりますか? という質問もありました。
養老先生は「難しい問題」と答えます。人間の脳を調べても、怒っているときの脳の状態は人によってバラバラなのだそうです。
「怒っている」というのがどういう状態なのか、決めることができません。
でも、昆虫を飼育しているという参加者のお子さんは、「今日は怒っている」とか「今日は眠そう」など、観察しながら感じているようです。
科学では解明できないことがあるのも、生き物の面白さですね。
高学年の部
まず、今回この本を選んだ理由を養老先生にお聞きしました。
今の人は、すでに言葉になった情報を整理することは得意ですが、自分の目で物を見て、それを言葉にするということをなかなかやりません。
ファーブルの昆虫記はそのような「言葉にする作業」(=ドキュメント)の典型で、それに触れてほしかったと言います。
そのあとは、実際に本の一節を参加者に朗読してもらいました。
その中で、昆虫は本能だけでうまくやっているけれど、人間の場合は思考(理性)がかえって邪魔をしているのではないかという感想がありました。
それに対して養老先生は、本能はうまくやっているように見えるけれど、実は融通が効かないと言います。
状況が変わっても同じことをやり続けるのが本能。遺伝子を変えるには長い年月が必要ですが、人間は神経系(脳)によってその場その場の状況で行動を変えることができるのです。
しかし、昆虫の本能もまた見事です。
スカラベが誰に教わったわけでもなくきれいな玉を作れることに、ファーブルが驚いている箇所を朗読しました。
養老先生と海野先生によれば、スカラベの糞球は実際に見てみると、本当にツヤツヤしてきれいなのだそうです。
日本にはセンチコガネという近い仲間がいますが、スカラベのように糞を丸める虫はいないそうで、それはとても残念です。
ファーブルの昆虫記は、子供のときに読んだ方も多くいらっしゃいました。
しかし、本国フランスではあまり有名ではないそうで、日本のように子供のときから昆虫を採る文化というのは珍しいそうです。
養老先生は、日本が自然の豊かな国で虫が多いこと、花鳥風月を芸術の題材にするような感性の文化と関係しているのではないかと話してくださいました。
大人の部
この本は、子供のときに「蝶はなぜ同じ道を飛ぶんだろう?」という疑問を持った著者が、やがて研究者になって蝶の行動の不思議を解き明かしていく本です。
蝶道については多くの人が不思議に思っているようで、養老先生や海野先生、そして参加者の方も、子供の頃に興味を持ったと話してくださいました。
あとで海野先生が解説してくださったのですが、実験室ではなく野外でこのような観察や実験をするのは非常に大変で、そういうことをやってみようとヨーロッパで動物行動学が確立されました。
日高先生はそれを日本に持ち込んだわけですが、その背景には彼自身が子供のときから昆虫に興味を持って、それを解き明かしたいという情熱があったからなのです。
本書を読んで、子供の頃に比べて昆虫が減っていることに対する心配の声もありました。
養老先生、海野先生によると、「その辺にいる虫」(=普通種)ほど減っているといます。
ある場所に特有の虫は、その場所が保全されて今でも見つけることが難しくない一方、ありふれた場所というのは整地されてしまうので、普通に見かけていた虫ほど逆に見つかりにくくなっているのです。
また、植林などによって環境が画一化されているために、虫たちの逃げ場所がなくなっているともいいます。
シジミチョウやキアゲハなどを例にとって、その生態と環境の変化について話してくださいました。
養老先生は小さい頃病弱だったそうですが、日高先生も体が弱かったと書かれています。
学校に行けなかったり友達と遊べなかったことが、虫に興味を持ったことと関係があるようです。
養老先生がこうしてお元気でいらっしゃるのを見ると、虫採りは健康の秘訣なのかもしれませんね。
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今回はコロナ禍のため、zoomでのリモート開催となりました。
次回はぜひみんなで集まって読書会を開きたいですね。
ご参加くださった皆様ありがとうございました!